ご挨拶Welcome

ご挨拶

 精神医学領域における早期介入は、1980年代の精神病性障害を対象とした取り組みに始まり、1998年に国際早期精神病学会(International Early Psychosis Association, IEPA)が設立され、世界的に早期介入を牽引してきました。我が国においては、日本精神障害予防研究会を経て、2008年12月に日本精神保健・予防学会に改組されました。
 ところで、前述のIEPAの語は、それが略さずに綴られる(スペルアウト)ことは現在ありません。学会のホームページにも、IEPAはIEPAとしか書かれていません。コロナ禍を過ぎてようやく久しぶりに、昨年7月スイスのローザンヌにおいて、第14回国際学術総会(IEPA14)が現地開催されました。IEPA PresidentであるAlison Yung教授と話した際に、IEPAのEとPは、今はEarly interventionとPreventionと考えるのが適切だろうと仰っていました。もはやEarly Psychosisではないわけです。
 初回エピソード精神病(First-Episode Psychosis, FEP)を対象に始まった早期介入は、発症リスク状態(At-Risk Mental State, ARMS)へと対象を広げ、そして精神病性疾患に限らずより広く「精神疾患」のリスク状態を表すClinical High At-Risk Mental State (CHARMS)、さらには若者のメンタルヘルス(Youth Mental Health, YMH)へと、主眼を置く範囲は広がりつつあるのが、近年の早期介入の動向といえます。こうした流れの中で、生物-心理-社会(Bio-Psycho-Social)の各側面からの、バランスある包括的な議論と取り組みが今後も欠かせません。
 一方で、早期介入が精神疾患の予防・回復やメンタルヘルスの維持に効果を認めることが、世界的にも様々な研究で明らかにされてきたものの、我が国おいて、理解の高まりをみせながらも、臨床や地域における実践は依然として広がりに乏しいのが現状といえます。研究成果が臨床現場で実践されずに解離が生じている「エビデンス・プラクティスギャップ」が、医学領域における重要な課題であると近年認識されつつあります。こうした問題の解決に向けて、社会実装(social implementation)を主題とした、実装科学(implementation science)という新たな学問への期待も高まっています。
 第27回日本精神保健・予防学会学術集会では「早期介入の社会実装に向けて」をテーマに、実装への課題と方法、そして展望を、多くの方々と様々な視点から十分に議論したいと考えております。我が国の世界への玄関口ともいえる大田区において、皆様のご参加を心よりお待ち申し上げております。

第27回日本精神保健・予防学会学術集会
   大会長 根本 隆洋
(東邦大学医学部 精神神経医学講座・社会実装精神医学講座 教授)